衆院予算委員会で12日、「新型コロナウイルス対応・内外の諸情勢」に関する集中審議が開かれ、共同会派「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」(立国社)から黒岩宇洋、後藤祐一、川内博史、辻元清美、逢坂誠二の各議員が質問に立ち、新型コロナウイルス対策や「桜を見る会」問題、憲法改正、安倍総理の政治姿勢、石炭火力発電――等について取り上げ、安倍総理はじめ政府の見解をただしました。
黒岩議員は冒頭、2月4日の同委員会での質疑で総理秘書官に声を荒げたことについて「礼を失していた」と謝罪。一方で、総理が同日、自身の発言に「これはニューオータニの規約にあるわけないですよ。根拠がないことをおっしゃるって、嘘をついていることと同じですよ」と断言したことに対し、実際には規約そのものを総理に示したとして発言の撤回のみならず謝罪を求めました。しかし安倍総理は、別の議員とのやりとりのなかで発言を撤回したという理由でこれを拒否。黒岩議員は、「総理は、この規約については、事実について誤認があったから撤回したと認めているわけだから、この点については謝罪をしていただきたかった。非常に残念だ」と述べました。
桜を見る会「前夜祭」の契約をめぐっては、安倍総理は参加者一人ひとりが契約主体と主張としていることから、黒岩議員が「安倍総理御夫妻も契約主体ということか」と尋ねると、安倍総理は、「私はゲストとして、サービスの対価の対象ではないという形でそこに行った。まさに一員として行ったのではない」と答弁。「では、後援会がゲストとして総理を呼んだのか」と黒岩議員が続けると、後援会の人々の「安倍晋三に顔を出してもらいたい」という「要望に応えて私は行っているということであれば、ゲストとして行ったということではないか」と、安倍総理はこれを認めたため、黒岩議員は「後援会がゲストとして呼んだということは、これは後援会自体が契約主体だということの一つの証左だ」と指摘しました。
黒岩議員は質疑を通じて、ホテル側の規約があるにもかかわらず個別の契約において特段の取り決めが行われていないこと、契約主体であるホテルが参加者個人個人のお金の入金の受領をチェックしていないことも確認。「これは、参加者が契約主体ではなく、仲介して責任を負う安倍事務所または安倍後援会が契約の主体であるということの証左だ」と断じました。
新型コロナウイルス対応を中心に取り上げた川内議員は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で10日、新たに66人の感染が確認されたことに関し、厚生労働省からの公表前にメディアに公表されてしまったのではないかと、その経緯を問題視。「風評被害や、あるいは船の中にいる人々の疑心暗鬼、国民全体の疑心暗鬼を解消する、ないようにしていくためには、当局が迅速に情報提供する必要がある。若干の反省すべきがあったのではないか」と指摘しました。
その上で、クルーズ船内の乗組員、乗客全員の検査をいったんやらなければならないと主張。「難しいとか難しくない、あるいは可能か可能ではないの話ではなく、これはやらなきゃいけない。やるという決断をして、では、どうやるのということを検討する段階ではないか」と迫りましたが、加藤厚労大臣は、クルーズ船の乗組員、乗客全員が多いことなどから、「最大限努力をして能力を上げてきているが、今の段階でできるところをまず進めていく。確定的に言えるまでは少し時間をいただかなければならない」と答えるにとどまりました。川内議員は、対策本部長である安倍総理に対しても「全件の、全ての方々の検査をし、そして、この新型コロナに立ち向かっていく、闘う、そして、人々の安心、安全を確保していくというのが総理大臣としての役目」と求めました。
川内議員は、2017年にマルチ商法で業務停止命令を受けた暗号資産販売会社「48ホールディングス」(札幌市)の役員が、「桜を見る会」や前日の「前夜祭」に出席し、総理らと記念写真を撮り、その写真を会員勧誘に使っていたという疑惑が一部メディアで報じられたことにも言及。「内閣として招待を、招待状を出しているということは間違いない事実。本来は招かざる人々を招いてしまっていたのではないか。その結果として人数がふえてしまっているのではないかということについて、総理として反省する部分があるのではないか」とただしましたが、安倍総理は応じませんでした。
辻元議員は、憲法改正を中心に質問。はじめに、自民党などからコロナウイルスに絡み「緊急事態条項」を設ける話が出てきていることを問題視し、「日本は憲法をわざわざ改正して、緊急事態条項がなくても新型コロナウイルスを始め感染症の対策はしっかりできると、公式の場で、国際的にも発信していただきたい。危機のたびに、憲法改正しないと危機対応が十分できないと発信することが、いかに日本の信用をおとしめ、日本の国益を損なうかということをしっかり肝に銘じていただきたい」と述べました。
安倍総理が憲法改正に意欲を示していることに対し、議員立法で国民投票法をつくるときの立法府の意思として、当時提出者の加藤厚労大臣が「与野党が政権をかけて争う国政選挙と、国会の3分の2以上の勢力が協調して行われる憲法改正是非を問う国民投票とは質的に異なるものである。同時に行えば有権者の混乱というものを引き起こしかねない。こういう観点から、この法律においては、憲法改正国民投票と国政選挙を同時に実施することは想定していない」と答弁していることに言及。国民投票は、自由に戸別訪問ができるなど公職選挙法とは全然違うルールであり、総理大臣といえども、憲法改正を第一義的に仕切っていく立法府の意思を尊重していただかないと困ると釘を刺しました。
今回安倍総理が提起している自衛隊の明記に関しては、「国民投票で否決されたら合憲だという社会的なコンセンサスにさらに疑念が広がるのではないかと心配している。自衛隊の士気の低下、国際的な信用が低下するのではないか」と指摘。「自衛隊が大事だと思うから申し上げている。国論を二分するような案件は、憲法改正になじまない。国民を戦わせ、国家が分断される。国家の安定性を損なう。それに自衛隊を張るというのは愚かだと思う」と述べました。
また、安倍総理が自衛隊の明記の前は96条の改正に夢中になっていたことに触れ、「本会議場で、施政方針演説で、条文まで挙げて、『まずここから変えていくべき。多くの党派が主張しております憲法96条の改正に取り組んでまいります』といって、みんなびっくりした」と当時を振り返りながら、なぜ今度の自民党の改憲4項目に96条は入っていないかと尋ねました。これに対し安倍総理は「96条は3分の2の多数がなければ発議できない。当時は3分2に向けて、多数を構成できる可能性がより高まったのではないかと判断したが、その後、党の中で9条について堂々と議論すべきだという議論の方がまさったなかで、この4項目についての議論に収れんしていった」と答弁。辻元議員は、「総理大臣が施政方針演説で言った言葉はそんなに軽いのか。憲法改正がしたいということは分かったが、結局、何でもいいということだ」「今、国民の声は、憲法よりも、暮らしや老後の不安、災害の対策、いっぱいある。温暖化対策。政治的なエネルギーというのは限られている。何を優先順位にするのか。自衛隊を一か八かの勝負にかけるのか。そんな余裕は日本にはないし、自衛隊に失礼だと思う」と断じました。
逢坂議員は冒頭、新型コロナウイルスを拡大させないためには、隔離をすることは一定程度の意味があるとした上で、クルーズ船の中という閉鎖空間ではさまざまな衛生環境も心配されると問題を提起。実際に感染していない方に感染する可能性、リスクの観点から「メリットとデメリットをしっかり比較考量して、いつまでもこのクルーズ船の中にとどめておくのがいいのかどうか、その判断はしっかりしなければいけない」と指摘しました。
逢坂議員はまた、10日の同委員会で山尾志桜里議員が指摘した、黒川東京高検検事長の定年を国家公務員法に基づき半年間延長した閣議決定と、「検察官と大学教官については、既に定年が定められているので、今回の定年制は適用されない」とする昭和56年(1981年)4月28日の検察官の定年延長に関する人事院答弁との整合性をあらためてただしました。
気候変動をめぐっては、激しく海の状況が大きく変わってきているなか、さまざまな地域での漁協の販売高がピーク時の3分の1、4分の1と大幅に下がっていることを受け、漁業に関する価格変動対策、漁業の所得補償、価格安定についての再検討を要請。あわせて、さまざまな課題、不安をかかえる水産加工業者の皆さんに対する総合的な窓口の設置を求めたところ、安倍総理は「現在、地域の水産加工業者の相談にワンストップで対応できる総合案内窓口を各都道府県に構築すべく、取り組んでいるところ」と答えました。
公文書管理を担当する北村担当大臣には、安倍政権でこれほどまでに公文書の改ざん、廃棄、隠ぺい、ねつ造が頻発する理由を質問。「職員一人ひとりの理解、意識が不十分であったこと」などと答える北村担当大臣に「政治の側が適当なことをやってしまうから、これは役所の皆さんがそれを何とかして隠さなければいけないと思うから、書類を捨てたり改ざんしたりするのではないか。問題は公務員の皆さんのコンプライアンスや意識というものではない」と断じました。